連載エッセイVol.28を掲載しました

研究者とインタープリター

真船 文隆

「これまで見えなかったものが見えるようになる」というのは、科学者が研究を進める上で技術的な大きな一歩となる。兵庫県の理化学研究所高輝度光科学研究センターには、Spring-8という特殊な光を発生させるための加速器があり、さまざまな分野の研究者が、自分たちの実験試料を「見る」ためにやってくる。少し前の話だが、和歌山の毒入りカレー事件の捜査の際には、犯行に使われたヒ素とそれに含まれる不純物を正確に同定するためにSpring-8が用いられた。私自身、「そういう使われ方もするんだ」と驚いたことを覚えている。

このSpring-8に併設される形で、さらに夢の光源が現在建設中である。それは、X線自由電子レーザー(通称XFEL)と呼ばれる、強いX線の光を出す巨大な施設である。波長の短いX線(最短波長0.06 nm)で、波長0.1 nm近辺での明るさはSPring-8と比べて10億倍に達する。これほどの光であれば、タンパク質が1分子あれば、その構造を解析できると考えられている。まさに、「これまでに見えなかったものが見える」ようになるわけで、たとえば、膜タンパク質の構造を解明し機能を理解して新薬の開発につなげるなど、基礎科学の発展のみならず社会的な波及効果も大きいと考えられている。

XFELの建設と並行して、それを利用する研究プロジェクトが動きつつある。私も、上記の1分子たんぱく質解析のプロジェクトに関与し、文部科学省、科学技術振興機構(JST)からの業務委託で研究を進めている。実はこの「業務委託」には、はじめかなり戸惑った。普通、研究を進めていくと、必ずしも当初思っていたこととは違う方向性に進むことがある。またそれがとてつもない発見につながることがあるわけで、そのマージンを保証してほしいところである。しかし、業務委託はそもそも意味合いが違い、年度初めに計画したことは、必ず実験することが求められる。したがって、年度末の報告書には、計画書で書いた内容と1対1で対応するように報告する必要がある。

冷静に考えると、当たり前のことである。明確な目的に向かって、ロードマップに従って突き進んでいかなければならない。しかし、当たり前だと納得したのは、JSTの調査員の方とお話した時かもしれない。その方は、もともと物理学がご専門で、学位を取得した後研究を発展させて、どちらかというと化学よりの「ソフトマター」を研究されていた。研究分野は必ずしも近くはないが、研究者は研究者どうし共鳴するものがある。しっかりした研究のバックグラウンドを持った上で、現在は、研究者とJSTの橋渡し役をされている、これぞまさに科学技術インタープリターなのかもしれない。でも、なんとなくJSTにうまく丸めこまれている・・・ような気もする。

2009年11月20日号

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