連載エッセイVol.34を掲載しました

学問をとおしての出会い

山邉 昭則

2010年の桜が咲き始める頃、白金キャンパス(医科研)のある敬愛する先生から内線をいただいた。こちらの新年度の方向性がクリアになり、ご報告を差し上げていたことへのレスポンスである。その先生と私の所属は、いわばそれぞれのキャンパスでの、科学・技術と社会の関係について教育や研究を実施する組織同士といえる。これからもぜひ協力していこうね、という温かい言葉をいただき、その後の話題は、この分野で何か全学的なネットワークができればいいねという内容へ移っていった。せっかく学内広報の貴重な紙面をいただいたので、そうしたことについて少し触れてみたいと思う。

近年、東大のなかの様々な学部・研究科で、科学や技術をめぐる望ましいコミュニケーションを目指す活動や、必要に応じて研究のアウトリーチを担当する組織が増えている。学術的なアプローチから華やかな広報まで、方法と役割は文字どおり多彩である。そうしたなか私たちは、大学院生を対象とし、将来的に学部教育とも合流して、学術に根ざした教育を実施する点にひとつの特徴を持つ。そのため、上記の皆さんの活動と重なる要素は多く、様々な催しでお会いすることもあれば、私信をやり取りしたり、一緒にご飯を食べに行ったりする間柄であることも少なくない。

とはいえその一方で、東大という同じ屋根の下で暮らす住民同士にしては、連携の在り方がやや個人的な知己に依る傾向があり、公的な組織としてのお付き合いの機会は、恵まれた環境の割には十分に生かされていないのでは、という感覚をその先生と共有したのである。実は似たような感想を抱いている先生方は少なくないと予感している。友情などの私的な文脈に基づいた協働も好きであるが、それはそれとして、もし連携を良い意味で標準化させる公的なネットワークが形成されれば、人の交流から、事業や教材の共有、学問上の発見に至るまで、豊かな効果がもたらされる可能性は高い。しかもそれは運営に種々の負荷のかかる実体的な何かである必要は必ずしもなく、まずは組織図の概念上のものであっても、長期的に何か有意義な結びつきのきっかけとなるかもしれない。

そういうわけで、もし教員のこうした意識が、次第に現実へ反映されていくとすれば、その教育へ参加するチャンスのある学生の皆さんもまた、これまで以上に、本郷、駒場、弥生、柏、白金、その他の様々なキャンパスや学業拠点から積極的な関心を向けていただきたいと考えている。自分と異なる専門の仲間たちとの出会いは、主専攻では得難い気づきを与えてくれるし、楽しく尊い。かくいう筆者も、今の職務をとおして学問の面でも人の面でも非常に豊かな出会いに恵まれてきた。慌しい仕事の束の間に、学術的な交流と称して学内外の先生や学生をお招きし、実際のところは持ち寄った美味しいケーキやコーヒーをご一緒する楽しい時間なのであるが、そうした日常の余白のようなひとときは今後も大事にしたい。これからも内外の様々なご縁を大切にしていきたいと考えている。

2010年5月25日号

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