連載エッセイVol.52を掲載しました

コミュニケーションの効果は測定できるか?

佐倉統

科学技術コミュニケーションの効果は上がっているのか? 影響を測定しなければいけない!──最近は科学コミュニケーションの関係者が集まると、二言目にはこの話題になる。日本だけのことではない。PCST(Public Communication of Science and Technology)など、科学コミュニケーションの国際会議でも事態は同様だ。誰が評価するのか? 適切な評価尺度は? 定性的な側面はどうする?……などなど。

さまざまなところから助成資金をいただいて運営しているプロジェクトなのだから、スポンサーにきちんと成果を報告するのは当然のことだ。だが、評価する側とされる側とで「成果」についてのイメージが共有できていないと、評価は徒労に終わる。あるいは相互不信を残しかねない。

そもそもコミュニケーションの成果とは何だろうか。日常の生活場面でのコミュニケーションで考えてみよう。対人関係であれ組織間であれ、コミュニケーションが順調にいっているときは、ほとんど意識にのぼらない。不全になってはじめて気づく。コミュニケーションとは、「健康」のようなものだ。科学技術コミュニケーションも同じだろう。理科離れ、科学離れ、あるいは原発事故などがあって、はじめてその重要性が認識されることになる。

だから、科学技術コミュニケーションの「成果」をはかるのは難しい。ジョギングや水泳や健全な食事をして健康状態が保たれていることが実感できたとしても、個々の運動や食事の個別の効果は、なかなか測定できない。

個人的には、コミュニケーションの「成功」とは、そこにいる人々が心地よく、活き活きとした気分になることだと思っている。親しい友人との知的で気の置けない会話。愛する人との言葉は少ないが心休まる会話。授業中の一言で、眠そうだった学生たちの目がパッと輝いたとき。いずれも、その「効果」を測定するのは難しい。心拍数や筋電位やアドレナリン量などを測定すればできるかもしれないが、科学カフェの参加者からそんなデータを取るのは現実的ではない。

名案はない。とりあえずの提言は、以下の二つである。プロジェクトの事前に、評価者側と評価尺度についての共通見解をある程度共有しておくこと。コミュニケーションの成功は、参加者の笑顔の数であるとコミュニケーターは心得ること。その先は、また次の課題である。

2011年11月30日号

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