連載エッセイVol.64を掲載しました

リスク情報をどう生かすべきか

石原孝二

今年の6月と7月に、福島原子力発電所の事故に関する国会と政府による調査委員会(国会事故調と政府の事故調査・検証委員会)が相次いで最終報告書を発表した。国会事故調が強調するように事故はまだ終わっていないが、この二つの報告書や東京電力の報告書などによって事故の背景に関する詳しい情報を得ることができるようになってきた。

国会事故調の報告書によると、東京電力や原子力安全・保安院は、福島原子力発電所に対して想定を超える津波が到来し、全電源喪失・炉心損傷にいたる可能性があることを認識していたとされる。このような重大なリスク情報に触れていながら、なぜ事故を防ぐことができなかったのだろうか?

報告書はリスク情報を生かせなかった直接的な原因は東京電力の安全性軽視の姿勢にあると指摘している。確かに東京電力のリスクマネジメントの考え方や体制には重大な問題があったと考えざるを得ない。しかしもちろん、東京電力の企業姿勢のみに問題があったわけではない。報告書からは、日本の原子力発電に関わるリスクマネジメントシステムの全体に様々な重大な問題があったことが伝わってくる。

津波に関するリスク情報を生かすことができなかったことは、専門家集団間のコミュニケーションに関する問題ととらえることもできるし、リスク評価のための研究資源の配分の問題や、評価結果の規制システムへの具体的な組み込み方に関わる問題などとしてとらえることもできる。これらの問題を解明していくことが科学技術社会論や科学技術コミュニケーション研究の今後の課題であろう。

また、原子力発電の利用を続けるべきかについては、切り離して別の問題として考えていく必要がある。今回の事故はほとんどの専門家にとっては、現実に起こることを想像し得ないものであった。今回の事故で明らかになった様々な問題点がすべて解消されたとしても、事故の可能性が無くなるわけではないということは、常に念頭においておく必要があるだろう。

2012年11月26日号

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