連載エッセイVol.85を掲載しました

科学技術インタープリターに関わりのないもの

岡本拓司

科学技術インタープリターに関わりのないものなど、探すのが難しいというのが趣旨である。

本欄の名称は「インタープリターズ・バイブル」であるが、これは本来は、旧約・新約の聖書の一語・一句に、神学・語学・歴史学はもちろん民俗学等に至るまでのあらゆる知見を用いて詳細な解説を加えた浩瀚な書物の名称である。翻訳者であれ解説者であれ、或いは説教者であれ、「インタープリター」の語感を伝えるよい例であるので本欄の名称に採用されていると思われるが、その意図を了解するためには、表面的には科学技術インタープリターとは関わりの薄そうな聖書の解説書についてさえ、一定の知識が必要となるというわけである。

さらに科学技術インタープリターの中身に立ち入れば、まずは「科学」という語が何を指すかが問題となる。通常は自然科学が念頭に上るであろうが、人文科学・社会科学という言葉もあり、すると科学はほとんど「学問」の意味で用いられていることになる。それでも典型・模範とされているのは自然科学ではあろうが、その特徴は何であるかと考えるためには、自然科学以外の知識・学問と何が異なるのかを考える必要がある。そのためには、自然科学以外の知識・学問の方法や対象に関する、決して浅くはない理解が必要とされるであろう。

やや広げて「科学技術」としてみるとどうか。以前、平凡社の『大百科事典』の初版(1931年?1933年)を見る機会があった際、項目中にこの語がなかったことに新鮮な驚きを覚えたことがある。昭和初期には存在しなかったこの語は、日中戦争勃発(1937年)以降、高度国防国家の建設の一環として、科学・技術の活用のための新たな体制が築かれる過程で、「新科学・技術体制」、「科学・技術新体制」などの言葉を経て成立したのであった。西洋には一語でこれに対応するものはないとされる「科学技術」という言葉そのものに、明治維新以降、国家と社会が科学と技術の導入と育成を図ってきた足取りが刻まれているともいえる。

以上のような次第で、この欄に狭義の科学技術インタープリターに関わりのないように見える話題が上ることがあっても、どうかお許し頂ければ幸いである。

2014年8月25日号

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