連載エッセイVol.108を掲載しました

銭湯やお寺は住民の健康を向上させているか?

孫大輔

「谷根千(谷中・根津・千駄木)から銭湯やお寺がなくなると、住民の健康にも影響があるのか?」。筆者は昨年から地元住民らと協力し、上記のテーマで研究を進めている。街に古くからある銭湯やお寺、また谷根千の住民が行っているさまざまな活動は、地域の人々の健康資源や社会関係資本(ソーシャルキャピタル)となっているのではないか、という仮説を持ったからである。研究メンバーは医療系研究者や保健師、僧侶、地元住民などであり、さまざまな視点から分析を進めている。

谷根千地域には震災や空襲の被害を免れ、古くから残っている建築物が多く、人が集う場となっている。その代表が銭湯や寺社である。つまり谷根千には江戸時代から続く「まちのDNA」が色濃く残っている。また明治以来、周辺の東京大学や東京芸術大学などから、アカデミアとアートの影響が地域に流入した。そのような文化的に肥沃な土壌でさまざまな住民発の活動が花開いたのである。

例えば銭湯歴50年のある女性は「銭湯は人を育てる場所」と語った。世代を超えた交流の場であり、社会的な学びの場であり、癒しの場であった銭湯は、不可欠なソーシャルキャピタルとして住民の暮らしに深く根付いてきたようだ。また「寺町」と呼ばれる谷中には70軒余の寺社がある。座禅会などで多くの人が集まるお寺もあれば、「ほおずき千成り市」という住民運営による縁日を境内で毎年開催するお寺もある。こうした場が、住民にとって「人とつながる場」「心地よい癒しの場」となっており、住民の地域への愛着と活力を生んできた。

しかし近年、銭湯や古い建築物が廃業や改築によって急速に失われていっており、間接的に住民の健康に負の影響があると考えている。科学技術インタープリターとしての筆者の役割は、地域住民に自分たちの健康資源に気づいてもらい、地域の健康と医学的知識の橋渡しの役割を担うことと考えている。

銭湯利用者の方々と研究チーム

写真:銭湯利用者の方々と研究チーム

2016年7月25日号


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