Interaction with Society:日仏の機械・ロボット研究者による対談イベント報告

5月31日(水)に東京大学駒場キャンパスファカルティハウスで「Interaction with Society:日仏の機械・ロボット研究者による対談イベント」が行われました。東京大学科学技術インタープリタープログラム教員の大島まり先生とパリ・ソルボンヌ大学のローランス・ドヴィレー先生が「ロボットと社会の関わり方」や「科学技術分野への女性進出」について議論されました。

まず大島先生から、ご自身の研究とそれに関わるデータの扱い方について、倫理的な面からお話をいただきました。大島先生は流体シミュレーションを応用して人間の循環器系の解析を行い、動脈瘤などの状態を把握することで、病理予測や診断に役立てる研究をされています。ここで行われるデータ解析には、実際の人間の血管構造データなども用いられます。このような情報は、提供してくださった方の、重要な個人情報のため、扱い方には細心の注意を払わなくてはなりません。今まで現実の人のデータなどを用いることの少なかった分野の研究者が、学問分野の壁を越えて医療などに関与しようとする際に考えなくてはならない倫理の問題を提示されていました。

ドヴィレー先生はロボット研究者として、自閉症の方や高齢の方へのサポートをするロボットを開発するなど、長くロボット開発に携わってきました。近年はロボット技術が進化し人間の生活に浸透しつつある中で、ロボットと社会の相互関係について研究をされています。

まず、大島先生と同様にデータの取り扱い方についての問題提起がなされました。現在、非常に注目されている深層学習などのAI技術は大量のデータを学習することを基本としています。より良質のデータを、より多く学習させることが、よりよいAIを作ることにつながるのです。しかし人と関わるロボットをつくるときは、そういったデータに個人情報も含まれるようになるので、データの扱い方にも注意をしなくてはなりません。さらに、差別的なものや反社会的なデータを学習し、差別的・反社会的なAIができないように設計しなくてはなりません。しかし、何が差別的か、何が反社会的なのかはどのようにして判断すれば良いのでしょうか?

さらにドヴィレー先生はフランス社会が抱くロボットに対する懸念についてもお話されました。ハッキングやロボットによる支配、軍事転用などの問題はもちろんのこと、特に会場の注目を集めたのは、ロボットによる非人間化でした。ロボットが深く人間の生活に根ざすようになると、例えばロボットとしかコミュニケーションが取れない、あるいは現実の人間に対して嫌悪感を覚えてしまうなど、人間自身の人間性が失われてしまう可能性も考えられるのです。ドヴィレー先生は、あくまでロボットは道具であるという位置を忘れずに開発していくことの重要性を指摘されました。人間同士で解決すべき問題は人間同士で解決することを強調されていました。

また、女性の科学技術分野への進出についても議論が交わされました。大島先生は日本機械学会の会長です。日本において未だに工学、機械分野での女性研究者が少ないことを指摘し、高校への出張授業などを通して工学の知名度の上昇を図っていくことが重要であるとお話されました。ドヴィレー先生は1960年代からハードサイエンス(数学・物理学・機械)分野での女性研究者が増えていないフランスの現状をご説明くださいました。学際的な研究が活発化し、学問も多様化していくにつれて女性研究者比率も増えるものと期待されていましたが、今ひとつ伸び悩んでいるようです。さらなる学問的越境と、女性の憧れとなるような女性研究者のロールモデルの必要性を訴えられました。

会場との議論では、「ロボットと社会」とジェンダーの問題を融合させて、会場と先生方とで活発な議論が行われました。その中で、ロボットに性別は必要か、あるいはロボットの性別は何かというという問いが出され、ロボット研究者に男性が多く、彼らに名付けられるロボットの名は女性が多いという、歪な構造も指摘され、非常に有意義な議論となりました。

技術と医療、ロボットと人間、日本とフランス、男性と女性。多くの共通点を持ちながらも、遠く離れている両者について、問題の次元を限定しない、多次元的な議論を行うことができたように思います。

東京大学大学院総合文化研究科
広域科学専攻相関基礎科学系
修士課程2年
大窪 健児


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