市民公開講座「バタフライ・ウォッチング」参加学生による開催報告

今年度の6月から8月にかけて、本プログラムでは市民公開講座「バタフライ・ウォッチングー専門家はチョウをどう観ている?」を開催しました。この講座の実施に関わってくれた学生による開催報告をご紹介します。

なにはともあれ観察会は楽しい~「バタフライ・ウォッチング-専門家はチョウをどう観ている?」に参加して~

今年の夏、廣野先生のアイデアで始まった市民公開講座「バタフライ・ウォッチング」に参加してきた。この講座は、事前に専門家の方による講義(チョウの基本的な観察方法や、研究対象としての面白さについて)を受けた後、実際に高尾山近くの日陰沢に行って、渓流沿いを登りながらチョウの観察をしよう、という企画だ。

一般の方が対象と言っても、やはり参加者の多くは普段からチョウの観察を趣味としているような方々で、僕なんかよりも種名やそれらの生態についてはるかに詳しい人ばかりだ。僕は次から次へと繰り出される知識の数々に、「へぇ~そうなんだ、すごいですね」と感心するばかりだった。いつもそうなのだ。

僕は、博士課程で普段は研究をしている。専門は生態学で、植物と昆虫の多様性の関係について研究しているが、それこそチョウとその食草の関係なんかも研究の対象だ。でも、僕はいわゆる「生き物大好き」とか「生き物マニア」ではないため、生物調査が苦手だ。調査地である水田の畔でも、出くわす昆虫のほとんどを知らないし、とにかく写真を撮ったり捕まえたりして、図鑑とにらめっこして、やっとその生き物が何なのかがわかる。一方で、「バタフライ・ウォッチング」のような野外観察会に来る人は、ひらひらと目の前を通り過ぎただけで、その名前を言い当てることができる。そして次の瞬間には、もっと珍しい奴はいないのかとヒラヒラ歩きだす。僕にはその姿が、それこそチョウのように軽やかに見える。

僕はいつも、「僕なんかよりもっと野外調査に向いている人はたくさんいるだろうな」と思っていた。実際、今回参加された方々の調査能力は(もし数値化できたとすれば)、軽く僕の百倍を超えているだろう。

ところで、生態学では「市民科学」というアイデアが最近注目されている。個人の生態学者ではとうてい手にすることのできないような規模のデータを、一般の方々に取ってもらおうという考え方だ。このアイデアは、僕のような生態学者からしたら理にかなっているように思える。研究において僕が得意な部分は、仮説の設計とそれに合わせたデータ解析だ。「市民科学」によって生き物に詳しい方々にデータを取ってもらうことができれば、それこそ適材適所ではないだろうか。

と思っていた矢先、この企画のミーティングで廣野先生から「市民科学っていうのは研究者の押し売りじゃないのか」というお話を聞いた。僕の考えていたことは、確かに研究者のエゴイズムだった。一般の方々は、なにも研究者のために観察会に来ているわけではないのだ。そこの部分を勘違いしてしまっては、研究者と一般の方々との間の関係は、健全なものではななってしまうだろう。

今回、「バタフライ・ウォッチング」の企画に関わったことで、そのようなことを考えるようになった。しかし何よりも確かだったことは「観察会は楽しい」ということだ。

晴れた日に木陰の続く山道を歩くことは楽しいし、知らない人と変な生きを見つけてワイワイするのも楽しい。生き物に詳しい人に、手あたり次第見つけたものについて質問して困らせるのも楽しい。こういう純粋でポジティブな気持ちこそが、みんなが観察会に来る一番のモチベーションなのかなと感じたことが、今回の企画に参加した一番の収穫だと思う。今後、生態学者として(特に生物保全や環境教育を通して)一般の方々との交流にあたって、今回得られた感覚を大事にしていきたい。

東京大学 農学生命科学研究科 生圏システム学専攻 博士課程1年
科学技術インタープリター養成プログラム12期生
篠原 直登

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