連載エッセイVol.147を掲載しました

 

インタープリターとしてのフレディ・マーキュリー

藤垣裕子

英国のロック・バンド『クイーン』のヴォーカル、フレディ・マーキュリーは楽曲における優れたインタープリターであった。曲の良さを聞き手に届けるためにどういう歌い方をすればいいかを知っている。アルバムInnuendoに収録されたheadlongを、作曲者であるブライアン・メイが歌ったもの(You-tube上で公開されている)と聞き比べて、その思いを強くした。

さて、音楽バンドは、まず自らの作品をレコードやCD(あるいは動画)の形で記録して公表する。同時に、観客の前で披露するライブ・パフォーマンスを行う。仮に「形(記録)にすること」と「パフォーマンス」と区別してみよう。科学の研究者も同じで、まず自分の得た知見を論文や著作として形にする。同時に、聴衆(同業者あるいは一般公衆)の前でプレゼンテーションを行う。教科書の執筆は形にすることで、授業はパフォーマンスである。

いくらよいものを形にしても、パフォーマンスがよくなければ伝わらないことがある。そういう意味では楽曲の優れたインタープリターであり、パフォーマーであったフレディから学ぶことは多々ある。楽曲の表現は声の高さ、強さ、ビブラート、間の取り方、身体表現によるパフォーマンスが可能である。それに対し、科学研究の発表の場合は、ビジュアルエイドの使い方の他、話をする順番、聴衆の興味をどう引くか、どのような逸話を入れるか、そしてそれによっていかに聴衆に「自分ごと」として考えてもらえるか、などが重要になる。どういう表現をすればある知識群を聴衆に最もよく届けられるのか、工夫のしがいがある。

クイーンの楽曲は聞くと元気がでると言われる。同じように、プレゼンテーションを聞いて面白い、目から鱗が落ちる感じがする、思考の躍動感を感じる、思考が柔軟になる・・・といった感想をもってもらえるために、何が必要か。フレディが聴衆と行ったコール・アンド・レスポンスを、科学のプレゼンテーションの中に設計するには、どういうことが可能だろうか。フレディはステージ上から最後列の観客にまで声を届けようとした。こういうことは授業でも応用できるのだ。7万5千人の聴衆を相手にしたライブエイドや12万の聴衆を相手にした南米公演をみながら、思いを馳せる。

『学内広報』No.1527(2019年10月25日号)21頁より転載

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