連載エッセイVol.152を掲載しました

非常時にも機能する科学コミュニケーション

横山広美

コメディアンの志村けんさんが新型肺炎で亡くなったとニュースが入った月曜日にこの原稿を書いている。心よりご冥福をお祈りする。週末に外出自粛があったが、現在がどういう状況なのか、これからどうなるのか、どのくらいの期間続くのかなどの説明がなく不満と不安がたまっているところへのニュースであった。社会の動揺がニュースやSNSを通じて伝搬をしている。科学技術社会論や科学コミュニケーションの研究を行っている立場からなんとか少しでも貢献できないかと考え、3月28日に科学コミュニケーションの有志の会を発足させ活動を始めた。

科学と社会を扱う学問領域で、現在の状況は非常時の「クライシスコミュニケーション」が必要な時期である。政治と科学がきちんと連動し、誰から見ても合理的な判断が出されるのが望ましいが、日本の現状は海外に対応と比較してそうなっていない点がはがゆい。この時期を過ぎるとリスクを扱う社会とのコミュニケーション「リスクコミュニケーション」が必要な時期がくる。たとえば低線量被ばく、ワクチン接種や牛海綿状脳症(BSE)の問題などがあげられる。リスクとベネフィットを個々人が置かれた状況に応じて納得できる落ち着く点を見出していく。

最近の整理では科学コミュニケーションには①知識翻訳機能、②対話・調整機能、③共創のためのコーディネーション機能があるとされている。どれも単独でも大事な機能であり、どれかが欠けるとダメというわけではない。クライシスの時期であっても、①は科学コミュニケーションにできる重要な役割であるし、政策立案に必要な②③も、今回の場合は特にオンラインで貢献できるかもしれない。震災後、特に科学コミュニケーターの方々にとっては、リスクを扱うことに慣れず、専門も原子力や地震とは異なり、声を出すのが困難なほどの心理的圧迫という3つの壁「スキル・専門性・感情」の壁があった。しかし今回は、この壁を乗り越えながら、活動をしようと志を持ったメンバーが集まり活動を開始した。こうした「痛み」を伴う科学コミュニケーションの発展は、文科省の審議会でも議論が行われ期待をされている。

政策の現場、医療の現場で頑張っている方々を思うと頭が下がる。Kavli IPMUのメンバーも、数学と物理で見通しを立てようと貢献している。そう、いつもの学術の方法で貢献できることはきっとあるはずである。この原稿が公開されるころ、事態がさらに厳しくなっていないことを心から願いながら筆を置く。

『学内広報』no.1533(2020年4月22日号)より転載

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